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ほのおのなかにうたう
焔の中に歌う
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1928(昭和3)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,476 字 · 27 页
一切の脂っ気を抜いてしまった髪――一番上等のビロードを思わせるような、清らかな髪――は、コテの跡もなく自然に渦を巻いて、少し小さい可愛らしい顔のためにそれが黒檀の額縁になって居ります。
真珠色の皮膚には、白粉の匂もありませんが、人間らしい美しさの最上を見せた、活々して清らかさを漲らせて居ります。ほの匂う眉、これは、此節流行る筆で描いた曲線ではありません。秋の空を切り取って、それに大きい黒燿石をちりばめたような眼、ミルク色のやや小さい鼻、それから最後に、先刻深井少年が、夢現の間に紅芙蓉の花弁と見た――露を含んだルビーのような、恋の殿堂の扉のような――可愛らしさの限りを尽した唇、ニッとほほ笑むと、その間から真珠の歯がちろりと見えます。
「そんなに私の顔ばかり御覧になっちゃ厭、でも、随分美しいでしょう、ホッホホホホ」
正面を向いて、こうあでやかに笑われた時は、深井少年、北海道の林檎のように真赤になってしまいました。
「まあ、そんなに吃驚なさらなくともいいワ、按摩さんまで驚いて此方を向いてるでしょう」
と言い乍ら、窓から乗り出すように、
「按摩さん、何んかお聞かせしましょうか、歌劇のアリアはもう飽々したでしょう、……そうじゃない? ……でも今日はお客様だから、客間でカルメンでもないでしょう。