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ほのおのなかにうたう

焔の中に歌う

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1928(昭和3)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,476 字 · 27 页

青空文庫

三

けれども、一番感動したのは、何んといっても窓の外に立って居る按摩さんでした。その百鬼夜行の図にありそうなグロテスクな顔が、夕日を一杯に受けて、歌のメロデーのままに歪み、引釣り、咽び、泣くさまは、想像も出来ない不思議な見物です。杖を頤に支えて、硬直した身体をもたせかけては居りますが、その身体は寒天のようにふるえて、見えない両方の眼からは、太い涙が、際限もなく土の上へ落ちるのです。

「御覧になって……あんな熱心な聴衆は、どこのコンサートにあるでしょう、私の一番素晴らしい讃美者はあの按摩さんでなくて誰でしょう、ハーモニカの伴奏で、喜んで歌って上げる、上等のパトロンという意味はおわかりになって?」

身も魂も打ちひしがれたように、夕日を浴びて立ち尽す、奇怪なる按摩の姿――ノートルダムの怪像にも似た姿――を見て深井少年は、一ステージ何万円でなければ歌わないという駒鳥絹枝が、惜し気もなくその歌を聴かしてやる心持がわかるような気がしました。

三

「カム・イン」

ノックして入って来たのは、モーニングを着た、頤鬚のある、四十年配の立派な紳士でした。

「遅れてすみません、御病人は?」