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むざんやな
無惨やな
久生 十蘭
「オール讀物」1956(昭和31)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,601 字 · 16 页
と、言ってのけた。そこで犬塚が重ねて問いかけた。
「では、ご同意くださるか」
「同意しようとも」
「たしかに承わりました。柳営の内証向きには、ふとした抜裏がござって、当節、権勢の流行神の方へ、段々と手入れをいたせば、およそならぬということはないよし。お申付けがあれば、働いてみましょう」
「ほかに法はあるまい。なにがさて、そうときまったら、一日も早いほうがいいぞ」
「申すまでもなく」
「お上の手前は、なんと言いつくろえばよろしかろう。お役替などおすすめしたら、慮外なとお怒りになるかも知れず。その辺のところがむずかしい」
「仰せのとおりですが、お気先の和らいだ折を見はからって、手前から、そろそろと申しすすめてみましょう。お任せくださいますか」
「たのうだぞ」
ということで、その日は別れた。
寛延二年の春、桃の節句のすんだあと、雅楽頭の御前で、犬塚がなにげない顔でこんなことをいった。
「御用部屋にお入りなされてから、四度目の春を迎えましたが、日々のご心労、お察し申しております」
雅楽頭は、俗に思案顔という気魄薄げな面持で、
「そのことよ」
と肩を落して溜息をついた。
「上申の内書のと、些末な当務に精根を費やされること、ご濶達なお上のご気性では、さぞ煩わしく思召めされるだろうと」