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むげつものがたり
無月物語
久生 十蘭
「オール讀物」1950(昭和25)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,485 字 · 36 页
三条高倉宮の東南に後白河法皇の寵姫が隠れていた。江口の遊女で亀遊といい、南段で桜花の宴があったとき、喜春楽を舞って御感にあずかったという悧口者で、世間では高倉女御と呼んでいたが、毎月、月始めの三日、清水寺の籠堂でお籠りをすることを聞きつけると、走水の黒鉄という鉢叩きに烏面をかぶせ、天狗の現形で籠堂の闇に忍ばせて通じさせたうえ、基房の伽羅の珠数を落してこさせた。亀遊は基房の珠数を知っていたので、むずかしいことになりかけたが、走水の黒鉄が捕まったので、泰文の仕業だったことがわかった。黒鉄は磔木に掛けられて打たれたが、泰文の後楯があると思うのか、
「ほとほとに(女洞に掛けた言葉)舟は渚に揺るるなり、あしの下ねの夢ぞよしあし」
などと空うそぶいてみだらな和歌を詠み、面憎いようすだった。
後白河法皇の院政中は、口を拭っておとなしくさえしていれば、なにをしてもゆるされた寛大な時代だったが、泰文の放埓は度をこえているので、法皇も弱りきり、しばらく都離れのしたところで潮風に吹かれてくるがよかろうと、思いついて敦賀ノ荘へ流すことにした。
あばれだすかと案じられた泰文は、意外にも素直に勅を受け、二十騎ばかりの伴を連れて加茂川でひとしきり水馬をやってから、一糸纒わぬすッ裸で裸馬に乗り、京の大路小路を練りまわしたうえ、悠然と敦賀