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むげつものがたり
無月物語
久生 十蘭
「オール讀物」1950(昭和25)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,485 字 · 36 页
光覚は壇下に尊崇をあつめている教壇師だったが、「はやく処置をつけてくれないと、講莚にも説教にも出ることができない。朝霞の始末はどうしてくれるのだろうか」と手紙や使いでうるさくいって来る。朝霞の兄弟は兄弟で、「こう延び延びにされては、拷問にかけられるより辛い。一家の名誉が要求することに応じてくれなければ、われわれは衛門を辞するほかはない」などときびしく詰め寄る。
その頃の北ノ方というものは、奥深いところで垂れこめているうちに、いつ死んだかわからないような死にかたをすることが多く、葬いも深夜こっそりとすましてしまうというふうで、世間的にはとるにも足らぬ存在だった。殊に泰文などときたら、いまあってもう無い自然現象のようなものだとしか思っていないのだから、朝霞と保平の一件などは、事実だろうと否だろうと、なんの痛痒も感じない。保平の僕と白女を殺したのは、そういったもののはずみでそうなったまでのことで、立腹したのでもどうしたのでもなかった。弟や義兄たちの抗議も、ただうるさいと思うばかりだったが、際限なくせっついてくるので癇をたて、そんな邪魔なら、尼寺へやるなり、殺すなり、いいようにしたらよかろうといってやると、では勝手ながらこちらで埓を明けるから、悪しからずという返し文が届いた。