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むげつものがたり

無月物語

久生 十蘭

「オール讀物」1950(昭和25)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,485 字 · 36 页

青空文庫

どのみち、すぐすんでしまう」

「どうなりと、よろしいように」

清成が几帳の平絹をとって朝霞の顔にかけると、清経が綱を持って朝霞のうしろにまわった。綱の塩梅をし、棒を枷にして締めだしたが、うまくいかないので、べつな綱をとりに行こうとした。その足音を聞いて朝霞が顔から帛をとった。

「いったいまあ、なにをしているんです」

清経がふりかえりながらいった。

「この綱はよく滑らないから、べつなのを探してくる」

そういって出て行った。間もなく車舎から簾の吊紐をとって帰ってきて、眼隠しをするところからやりなおしたが、その紐もぐあいが悪いかしてやめてしまった。

「どうしたんです」

「これもぐあいがわるい」

また綱を探しに行き、こんどは棕櫚の繩をもってきて、それに切燈台の燈油をとって塗った。

「こんどこそ、うまくいきそうだ」

綱は棒にうまく絡んだ。兄弟が力をあわせて一とひねり二たひねりするうちに、事はわけなく終った。

朝霞の亡骸は用意してきた柩におさめ、青侍どもに担がせてその夜のうちに深草へ持って行き、七日おいて、泰文のところへ、朝霞が時疫で急に死んだと、あらためて挨拶があった。