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むほうもの

無法者

豊島 与志雄

「中央公論 文芸特集」1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,837 字 · 24 页

青空文庫

彼がキスを続けると、くく、くく、と機械的な軽い笑いが続く……。

突然、彼の頭に別なものが浮んだ。湯殿の中だ。誰かが、流し場につっ立って、磨り硝子を通してくる明るみで、自分の臍を見ている。臍の中には、胡麻粒のような黒い垢が点在している。誰かは、その垢の胡麻粒をほじくり出そうとする。初めは少し擽ったく、やがてほろ痛くなる。それを我慢して、しきりにほじくる。ぽろりと、垢の胡麻粒が一つ取れる。跡が蒼白く残っている。誰かは更に、次の胡麻粒にとりかかる……。

ホテルのベッドで、彼は俄かに飛び上って、ぺっぺっと唾を吐いた。そして大急ぎで服をまとい、靴をはいた。裸の女が毛布をひっかけて、痴呆のように坐っている。その方へ一瞥を投げただけで、彼はドアから逃げ出していった……。

昨夜、志村は横町の角で自動車から降り、ふらふらと歩いて帰った。ぺっぺっと何度も唾を吐いた。たまらなく不潔な気持ちだった。ステッキを振り廻した。するうちにふと、足を止めた。その薄暗い通りに、誰かが立っていた。彼を待ち受けるように佇んでいた。中年の女だ。髪をすっきりと取り上げ、頸筋がすらりとして、肩が寒そうに薄い。