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むち
無知
中谷 宇吉郎
「現代教養講座第二巻 幸福と自由」角川書店、1957(昭和32)年1月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,776 字 · 16 页
実はうすうすそれは感じているのであるが、それを意識の上にもち出すことを回避しているのであって、これは卑怯な精神である。この知ろうとしない精神が原因なのであって、すなわち無知が原因であるといって差しつかえない。
何だか、酒を目の敵にしているようであるが、無知の問題を論ずる場合は、一番わかりやすいので、これを例として話を進めるわけである。この場合、本当は、酒そのものよりも、それに付随しているいろいろな社会的な雰囲気、およびそれに対する考え方が、重要な問題になって来る。
日本は西欧文明を輸入してから、既に百年になる。「輸入文明だから」とよくいわれるが、百年も経てば、決して根が浅いとはいわれない。事実この間に、物質面は立派に一流文明国の姿に変った。今日の東京の街や、生産工業の面を見れば、欧米諸国とそう違わない状態になっている。しかし西欧文明の精神的な面は、ちっともはいっていない。もちろん表面的にははいっているが、その根本精神たる合理主義が、ほとんど取り入れられていない。そんなものは取り入れる必要がないので、従来の日本に足りなかった物質文明の方面だけ輸入すれば充分だというのは、和魂漢才的な考え方であって、今日の文明は、その域をとっくに脱している。