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むち
無知
中谷 宇吉郎
「現代教養講座第二巻 幸福と自由」角川書店、1957(昭和32)年1月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,776 字 · 16 页
アメリカなどでは、死刑の執行は、どんな場合でも、一応は大問題になるが、子供を殺した場合は、無条件に死刑で、それには誰も異存がない。そういう最悪のことを、いかに凶悪な犯人でも、悪いと知らないわけはないと、一応は考えられる。しかしこれは、言葉の文になるかもしれないが、本当には悪いと知らないから犯す行為ともいえる。幼児を殺しても、自分には何の利益にもならない。生かしておいても、別に損はしない。足取りが知れるおそれはあるが、それも大したことはない。たいていの場合、自分の家へ連れて来ているというようなことは、めったになかろう。そんなことをすれば、アパート内の人にすぐ感づかれてしまう。
自分には損にも得にもならないことで、先方の親にとっては何ものにも代えられない被害を与える。これくらい理窟に合わない話はない。これは精神が異常なのであって、無知の最大なものである。無知は精神病の一種であって、やっかいなことには、日常の生活で、精神病院に強制収容するほどの症状を見せない点が、困るのである。
人間の精神には、健康状態から、いわゆる精神病患者まで、連続した各段階の状態がある。