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むだい(いち)

無題(一)

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 20,502 字 · 41 页

青空文庫

女の瞳はおののいた様にそしていい勢にかがやいてこの美くしい人をどうかするものがあったならどうして呉れようと云う様に水の上から山の方まで見わたしました。湖の上には白金の波がくだけて美くしい音楽を奏でて居ます。夜風が身にしみてふっと詩人は目をさましました、そして物おじをした様に女の胸にすがりつきました。そしてまだすっかり夢のさめない様な目ざしで神様の様な女の顔を見上げました。自分の身のまわりに百人の武士が守って居るより心づよい気がして。

二人はそのまんまいつまでも居たい気がしました。けれどもつめたい夜の空気は薄著な二人の体につめたくあたります。三つ上の女は自分の大切な人に風を引かせてはと思ってやさしい声で云いました。

女「もうかえりましょう。寒くなりましたもん、家でもまってるでしょう、ネまた明日来ればいいでしょうネ、サア、もうお月さまもあんなに高くなったんですもの」

二人は月のさす小道を銀を引きのべた様な湖を後に家に向いました。森を出ると家々の灯はもうすっかりともされていかにも夏の夜らしい景色、二人は足をはやめてはじから三番目の灯の方に向いました。二人は戸口で、