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むだい(さん)
無題(三)
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,759 字 · 4 页
○夜が更けた中に起きて居ると、不思議に静的な万物が、彼女の心を嚇かす。
昼間は、多勢の人々の動作につれて、いつもみだされて居た家具調度の輪廓が、妙にくっきりとうき上って、しんと澱んだ深夜の空気の中に、かっきりとはめ込んだようにさえ見える。が、その静粛な明確さは決して魂のないものではない。
人々が寝室に退くその一瞬間前の、ややとり散した位置のまま思い思いに彼方此方を向いて居る椅子や、少し隅々のまくれたカーテンや歪められたクッションなどは、却って、日のある時には思いもよらなかった暗示的な感銘を与える。
若しその気分をもう少し強調して云えば、彼等が、昼間は擾乱させられて居た各自の魂を、此の人気ない深夜の間にとり戻して、その魂の持つ感情を、各自の気で表示して居るようだとさえも云えるだろう。
斯う云う真夜中に只一人起きて居ると、余り、自分の総てが明かに意識されるために、一寸、一足その妙に静まった部屋の中で歩いても、直ちに、その部屋にある丈のものが、同じだけの距離を、動く自分につれてゾロリとずって来そうな気さえする。
大きな机に向って、燃え落ちた黒いストーブを眺めながら、彼女は殆ど夜に圧しすくめられるように成って、彼の事を思うのである。