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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
と渡貫が又左衛門に訊いた、
「長浜の花屋か」
「そう、あの湖畔にある茶屋だ」
「あれなら二度か三度いったことがある、あるじというのは痩せた小男で、右のこめかみにこのくらいの痣が、――」と云いかけて、渡貫は下唇を噛み、じっとどこかを見まもっていたが、ふと又左衛門のほうへ振返った、「米浦平四郎か」
又左衛門は微笑しながら頷いた。平四郎、米浦平四郎、あの乱暴者か、などという言葉が、驚きの調子で云い交された。
「あれが平四郎とは意外だな」と渡貫が云った、「花屋では現に挨拶に来たが、彼はなにも云わなかったしこっちもまるで気がつかなかった、佐藤はまえから知っていたのか」
「ああ、五年ほどまえかな」と又左衛門が答えた、「二十四五のときに出奔して、江戸で庖丁の修業をし、江戸で店をやっていたそうだが、年をとると故郷が恋しくなるのだろう、江戸では一人息子に死なれ、店もうまくいかなかったようだ、息子の嫁は離別し、孫娘を伴れて帰って来た」
「だが出奔したとすると、この土地へ帰るのはうまくあるまい」
「いや、話はついた」と又左衛門は庄野に答えた、「いま米浦は平四郎の弟の子が継いでいるし、米浦を名のりさえしなければ、ということでおちついたし、長浜へ店を開くについても助力した