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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
幕ではない、黙って引込んでいろ」
「まあおちついてくれ」と正之助が云った、「わけも聞かずに怒ってもしようがないじゃないか、とにかくわけを話すから」
「ごまかしてもだめだ」畑中は自分で自分の怒りを煽るように喚き返した、「阿部さんの娘は席へ泣いて戻った、どうしたのかと訊いてもなにも返辞をしない、側にいた娘の一人が、あの丘の栗林の中できさまといっしょだったと教えてくれた、きさま雪緒さんをどうしたのだ」
「あの人は畑中の婚約者だろう」正之助は唇に微笑をうかべながら云い返した、「婚約した以上はあの人を信じている筈だ、おれは畑中とは友人の仲だし今日は年に一度の茸狩りだぞ、知っている者同志が少しばかり歩きながら話したって、眼の色を変えて怒るほどのことではないじゃないか」
「雪緒さんはおれの婚約者だ、それを伴れ出しても怒るようなことじゃあないのか」
「ないと思うね」と正之助が云った、「あの人はおまえと婚約はしたが、まだ妻になったわけじゃない、まだ嫉妬をするのは早すぎるだろう」
「嫉妬だと」畑中の顔は赤くなった、「きさまには武家の作法と嫉妬の区別もできない