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つばくろ(つばくろ)

燕(つばくろ)

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页

青空文庫

のだ」

又左衛門はなお言葉を続けた。沖から帰った漁師が、あげて来た魚がみな売り物にならなかった、とこぼしでもするように。梶本は茶を啜りながら黙って聞いていたが、やがて又左衛門の言葉の僅かな切れ目をみて、やさしみのある口ぶりで云った。

「佐藤には珍しいことを云うが、もうそのへんでいいだろう」それから、なにか批判を加えそうな眼をしたが、思い止ったように頬笑んでみせた、「――佐藤の結婚はおそかった、たしか四十七のときだったな」

「四十六だ」

「私は江戸で通知をもらったが」と云って梶本はまた頬笑んだ、「すると、結婚のおくれたのはその娘のためだったのか」

「その娘とは、――」

「友達のために譲ったという娘さ」

「ああ」又左衛門は巧みに狼狽を隠した、それは極めて巧みであり、梶本でなければ気づかなかったろうと思われるものであった、

「あれは一つの譬えだ、私のような味もそっけもない人間に、そんな浮いた話があるわけはないよ」

「庄野の妻になった人か」

「ばかなことを云わないでくれ」

「では新原宗兵衛の妻だな」梶本はわざと意地の悪い調子で云った、「佐藤のことは私が誰よりもよく知っている、その二人のほかにそれらしい