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はちゅうかんじけん

爬虫館事件

海野 十三

「新青年」1932(昭和7)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,914 字 · 38 页

青空文庫

お午餐のお弁当を、あたくしが持って行きましたが、それはとうとう父の口に入らなかったのでした。正午にも事務所へ帰ってこないことを皆様不思議に思っていらっしゃいましたが、父は大分変り者の方でございまして、気が変るとよく一人でブラリと園を出まして、広小路の方まで行って寿司屋だのおでん屋などに飛び込み、一時半か二時にもなってヒョックリ帰園いたしますこともございますので、その日も多分いつもの伝だろうと、皆さん考えておいでになったのです。しかし閉園時間の午後五時になっても帰って参りません。たまにはずっと街へ出掛けて夜分まで帰らないこともありますが、その日は事務室に帽子もあり上衣も残って居ますので、いつもとは少し違うというので、西郷さん――この方は副園長をしていらっしゃる若い理学士です――その西郷さんがお帰りにうちへお寄り下すって、『園長の例の病気が始まった様ですよ』と注意をしていって下さいました。ところが其の夜は、とうとう帰って参りません。夜遅くなることはありましても、たとい一時になっても二時になっても帰ってくる父です。それが帰って来ないのですから、どうしたことだろうと母も私共も非常に心配しています。