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はちゅうかんじけん
爬虫館事件
海野 十三
「新青年」1932(昭和7)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,914 字 · 38 页
今朝も、また更に繰返して探して下さるそうです」
「なるほど」帆村は頷いた。「西郷さんは驚いていましたか」
「はァ、今朝なんかは、非常に心配して居て下さいました」
「西郷さんのお家とご家族は?」
「浅草の今戸です。まだお独身で、下宿していらっしゃいます。しかし西郷さんは、立派な方でございますよ。仮りにも疑うようなことを云って戴きますと、あたくしお恨み申上げますわ」
「いえ、そんなことを唯今考えているわけではありません」
帆村は今時珍らしい、日本趣味の女性に敬意と当惑とを捧げた。
「それから、園長はときどき夜中の一時や二時にお帰宅のことがあるそうですが、それまでどこで過していらっしゃるのですか」
「さァそれは私もよく存じませんが、母の話によりますと、古いお友達を訪ねて一緒にお酒を呑んで廻るのだそうです。それが父の唯一の道楽でもあり楽しみなんですが、それというのもそのお友達は、日露戦役に生き残った戦友で、逢えばその当時のことが思い出されて、ちょっとやそっとでは別れられなくなるんだということです」
「すると園長は日露戦役に出征されたのですね」
「は、沙河の大会戦で身に数弾をうけ、それから内地へ送還されましたが、それまでは勇敢に闘いましたそうです」