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はちゅうかんじけん
爬虫館事件
海野 十三
「新青年」1932(昭和7)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,914 字 · 38 页
見ると帽子と上衣は其儘で、お自宅から届いたお弁当もそっくり其儘です。黙って帰るわけにも行きませんので、畜養員と園丁とを総動員して園内の隅から隅まで探させました。私は園丁の比留間というのを連て、猛獣の檻を精しく調べて廻りましたが異状なしです」
「素人考えですがね、例えば河馬の居る水槽の底深く死体が隠れていないかお検べになりましたか」
「なる程ご尤もです」と西郷副園長は頷いた。「そういう個所は、多少の準備をしなければ検べられませんので直ぐには参りませんでしたが、今日の午後には一つ一つ演っているのです」
「そりゃ好都合です」と帆村探偵が叫んだ。「すぐに、私を参加させていただきたいのですが」
西郷理学士は承諾して、卓上電話機を方々へかけていたが、やっとのことで、捜索隊がこれから爬虫館の方へ移ろうというところだと解ったので、その方へ帆村を案内して呉れることになった。
白い砂利の上に歩を運んでゆくと、どこからともなく風に落葉が送られ、カサコソと音をたてて転がっていった。もう十一月になったのだ。杜蔭に一本鮮かな紅葉が、水のように静かな空気の中に、なにかしら唆かすような熱情を溶かしこんでいるようだった。