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ちちのおもかげ

父の俤

佐藤 垢石

「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,948 字 · 4 页

青空文庫

『はじめたね』

と、言って竿の手を休めた。そして、竿を石の上へ倒しておいて、私と並んで小石の上へ胡座したのである。

五月の真昼は、何とすがすがしい柔らかい風が吹くことであろう。小石原から立つ陽炎がゆらゆらと揺れる。砂原の杉菜の葉末に宿った露に、日光が光った。

眼の前の、激流と淵の瀬脇で、ドブンと日本鱒が躍り上がった。一貫目以上もある大物らしい。

日本鱒も、川千鳥と同じように、若鮎が河口へ向かうのと一緒に、遠い太平洋の親潮の方から、淡水を求めて遡ってくるのである。

夷鮫が、鰹の群れと共に太平洋を旅して回るのは、鰹を餌食とするためであるが、日本鱒も若鮎を餌にしながら大河を遡る。だから、利根川筋では、昔から若鮎を餌に使って日本鱒を釣っていた。

『お父さんが、お弁当を食べる間、お前が釣ってごらん』

私は、父がこう言ってくれる言葉を、朝から待っていたのであった。

軽いとはいっても、子供には力負けのするような父の竿を握って、私は錘を瀬脇へ放り込んだ。父のするように、竿先を少しずつ次第に水面近くへあげてくると、ゴツンと当たりがあった。びっくりするような強引な当たりである。