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ちちやくもをかたる
父八雲を語る
稲垣 巌
「父八雲を語る」ラジオ放送、1934(昭和9)年11月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,383 字 · 15 页
なのであります。それでヘルンはむしろ敬虔な態度で之を取扱ひ、その背後にある美しい思想や不思議な精神を眺めてゐるのです。
さてかういふ多種多方面の物語の、材料はどこから出たか、何を通じてヘルンに供給され、ヘルンのペンで改作されたかと申しますと、これは全部ヘルン夫人の口伝へによってゞあります。元来、ヘルンは日本語の知識は殆ど有って居りませんでした。日本語の研究などして居ては自分の天職を果す間に合はないといって、日常の談話の出来る程度の日本語と、片仮名、平仮名、それにほんの少数の漢字の知識で満足してゐたのですから、日本の書物の読書力は全然ないのです。それに日常の会話と申しましても夫人との間に於てのみ完全に通用する英語直訳式の一種独特の言葉でありました。私の兄は母に次いで中々上手でしたが、私も父の死ぬ一、二年前頃から、言はれる言葉を聴き分ける事だけは出来ました。
これを「ヘルンさん言葉」と名づけて居りましたが、例へば「テンキコトバナイ」といへば「天気は申し分なくよろしい」といふ意味です。それから、例へば「巖は遊んでばかりゐるから悪い。これから少しの間勉強する方がよい。