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ちちやくもをかたる
父八雲を語る
稲垣 巌
「父八雲を語る」ラジオ放送、1934(昭和9)年11月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,383 字 · 15 页
と題する一篇を改作したものでありまして、原文は漢文くずしの美文ではありますが、ヘルンの作の十分の一にも達しない極く簡潔なものであります。
芳一は赤間ヶ関阿弥陀寺に厄介になってゐた盲の琵琶法師であります。彼の得意とするところは壇の浦合戦平家一門入水の篇でありました。彼はある夏の夕、寺の住職が法要のため外出したその留守中の無聊を慰める為め、客間の縁側へ出て琵琶を弾じて居りますと「芳一芳一」と呼ぶものがありました。「どなた様でせうか……私は盲でございます」と答へると、其の声の主は「何も恐がるに及ばない。拙者の殿様は非常に高い身分のお方で、壇の浦見物のため今赤間ヶ関に御滞在なされてゐる。お前が琵琶の名手である事をお聞きになったので、一曲所望するため拙者を使者にお立てになった。拙者とすぐさま一緒に来て呉れ」と言ひました。芳一はこの不思議な使者に手を引かれて行きます。やがて大きな門の前へ着いた事を感じると、武士は「開門」と叫びました。閂を抜く音がする。その中に入った二人は広々した庭を横切り、再び、ある戸口の前で止りました。武士は大きな声で「おいおい、芳一を連れて来た」