轻松读懂日语经典作品
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ちち
父
矢田 津世子
「日暦」1935(昭和10)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,168 字 · 38 页
窓ぎわで編物をしていた紀久子は「さあどうぞ」と立ちかけて急いできまりのふた目を編んでいる。斜めになった膝から転げた白い毛糸の玉が、入ってきたおきえさんの素足を停めた。足化粧をしているかと思われる艶々とした肌に親指の薄手なそりが何んともいえず美くしい。家の内では冬でも足袋をはかないでいるところをみると、おきえさんはこの足の美くしさを充分に知っていて、これが人眼にふれるのを誇りにしているともみえる。紀久子はおきえさんの素足へちらと眼をやって、そんなことを考えていた。
おきえさんは膝をついて毛糸の玉を拾いあげると「御精が出ますことね」と頬笑みかけながら下座になっている縁のはたへ坐った。姉や兄の前でもおきえさんはいつも下座を選ぶのである。
「ちょっと、御覧になって頂きたいものがありまして」
こう云って下へ置いた包みをほどきにかかった。行きつけの百貨店から届けさせた反物らしい。
「あの、こんな柄お気に召しませんでしょうか」
濃い紫の地に紅葉をちらした錦紗をするするとほどいて自分の膝へかけた。
「前から心がけていたのですけれど、なかなかよい柄がなくて。あの、いつも御親切にして頂いているほんのお礼心なのですから、どうぞ」