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ぼたん

牡丹

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,684 字 · 26 页

青空文庫

却って手塚の方が亢奮をかくせない様子で、

「――仕度はいいんだろうね。主人公が来たがらないんで困ったよ」

と云った。

「ここはあなたが御主人だからおいで下さらなくちゃあ立前になりません」

石川は、さり気なく、跋を合わせた。

「奥様はどうなさいました」

幸雄は、ステッキを腰にかって、働いている職人を見守りながら、

「今に来るだろう」

とぼんやり答えた。

「おーい、かかるぜ」

主屋の桁に職人が攀登った。威勢の好い懸声で仕事が始った。手塚はいつになく頻りに幸雄に話しかけた。

「あそこの樫がどいたら偉く見晴しがよくなったな、何だろうあれは……箇人の住宅にしちゃ広すぎるな」

幸雄は、遠く見晴す丘の裾に青い屋根の洋館がポツリと建っている方に目をやったが何とも返事しなかった。

「立ってちゃくたびれちゃうね、やっこらと」

手塚は運び込んだなりの庭石の一つに腰を下した。やがて幸雄も来て傍にかけた。いつの間にか背後の生垣の処に植木屋に混って詰襟を着た頑丈な男が蹲んで朝日をふかし始めた。石の門柱を立てる、土台の凝固土に菰がかぶせてある。そこから、ぶらりと背広を着た四十がらみの男が入って来た。