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ぼたん

牡丹

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,684 字 · 26 页

青空文庫

その辺からもう町の大通りである桜並木が始っていた。天気の好い冬の日など霞んだように遠方まで左右から枝をさし交している並木の下に、赤い小旗などごちゃごちゃ賑やかな店つき、さてはその表の硝子戸に貸家札を貼られた洋館などを見渡すと、どうやら都離れて気が軽やかになり、本当の別荘地へでも来たような気がしないこともない。

石川は、無人島でアメリカへ売り込む鳥の羽毛を叩き落すのをやめてから、或る請負師の下に使われるようになった。その親方は手広く商売をし、信託会社にも関係があった。今××町の中にある凝った建築の邸宅で、その請負師の仕事が大分ある。あらかた建つだけの家が建ち、信託会社も請負師も住宅地から手を引いた。後に石川だけ遺った。先の親方時代からの縁故で、大工、植木などの職人は勿論、井戸替、溝掃除、細々した人夫の需要も石川一手に注文が集った。纏った建築が年に幾つかある合間を、暇すぎることもなく十五年近く住みついているのであった。

五年前、桜が咲きかける時分石川は予期しない建築を一つ請負うことになった。十五日の休みで、彼は家にいた。裏のポンプのところで、下駄屋の犬とふざけていた。