轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ぼたん
牡丹
宮本 百合子
「改造」1927(昭和2)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,684 字 · 26 页
偶々奥さんが正気に近くなっているとき来合わせると、石川は一種異様な心持になった。世の中にはこのような廻り合せの親子さえあるものだろうか。三十近い幸雄を奥さんは幸坊幸坊と呼んだ。
「ねえ幸坊や、お前さんどうぞ早く体をよくしてまた学校へ行っておくれ、俥でも自動車でも何でもお前の好きなものに乗せてあげるからね、そして、どうか一度母さんの前へ、十円でも十五円でもいいから、これは私が勤めてとりましたというお金を見せておくれ。……ね、幸坊や、たのみですよ」
さめざめと母の涙が窶れた頬を濡らすのであった。
「きいてたの? 幸坊――」
幸雄は聞いている。一間隔てた六畳に幸雄の真鍮燦く寝台があった。その上にゆったりと仰臥したまま、永久正気に戻ることない幸雄が襖越しに、
「いいよ、心配しないでも行くよ。――いいから、福ちゃんも新橋へおかえりよ」
と返事するのであった。福ちゃんと呼ぶのがいかにも母親の果敢ない一生を云い当てているようであった。その返事を聞くと奥さんは猶嘆いた。
「どうしてそういつまでも本当でないだろうねえ――幸坊。ちゃんと散歩をおしなさいよ」
「ああ」
「ねえ石川さん、切ないんですよ私ああいうのをきいていると、ねえ石川さん」