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カラスキーしのゆうじょう

犂氏の友情

久生 十蘭

「オール讀物」1939(昭和14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,312 字 · 27 页

青空文庫

一

山川石亭先生が、蒼い顔をして入って来た。

「どうも、えらいことになりました」

急々如律令といったていで椅子に掛けて、ぐったりと首を投げ出している。

スパゲティを牛酪で炒めている最中で、こちらも火急の場合だったが、石亭先生の弱りかたがあまりひどいので、肉叉を持ったまま先生のほうへ近づいて行った。

「先生、どうしました。ひどく蒼い顔をしていますね」

「実にどうも、二進も三進もゆかないことになって……」

先生はうっすらと汗をかいて、両手の中で手巾をごしゃごしゃにしたり、引っ張ったりしている。

「ほうらね。だから、言わないこっちゃない。……美人局ですか?」

先生は、今度は手巾の端を口に銜えて、手で引っ張る。田舎芝居の新派の女形が愁嘆するような、なんとも嫌らしい真似をする。もっとも、先生は夢中になっているので、自分では気がつかない。

「いや、もっと物騒なやつなんです。……美人局のほうなら、これでも、どうにか切り抜ける自信があります」

先生は、口から離した手巾を禿げ上った顔のほうへ持ってゆく。

「実は、盗っとに誘われましてねえ」

「盗っとが何を誘ったのです」