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カラスキーしのゆうじょう
犂氏の友情
久生 十蘭
「オール讀物」1939(昭和14)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,312 字 · 27 页
カラスキーの小さな烏眼の中で、瞬間、チラと焔のようなものが燃えた。
「あまり大きな声をしないでください。……政変……この巴里に、まもなく、たいへんな政治的擾乱が起きるのです。……その結果、この地区などは相当辛辣に検索されるにきまっていますから、先生のような方がこんなところでマゴマゴしていてはいけないのです。外国人が好んでこんなところに住んでいるなどというのは、その目的は何であれ、充分、疑惑の眼で眺められる余地があるのだから、先生の出ようによっては、ひどく困ったことにならないものでもありません。……ところで、先生の出ようってのは、それこそ、今ここで、充分察しられるのですからねえ。れいの鼻っ張りの強さで、だれかれかまわず喰ってかかられるにちがいないのです。刑事であろうと、巡査であろうと、まるっきり見境いがないんだから。……腹を立てれば、どんな出鱈目でも言うでしょうし……」
冗談どころではなかった。
この瘠せこけた、沈んだ顔色をした青年は、どういうゆえんによってか、石亭先生の馬鹿げた自尊心を害うことのない、もっとも聡明な方法で、当然、先生にひどい厄災を齎すであろう危険な地区から、それとなく追い立ててくれたのだった。