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カラスキーしのゆうじょう
犂氏の友情
久生 十蘭
「オール讀物」1939(昭和14)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,312 字 · 27 页
先生の放心は夙に有名なもので、のみならず、たいへん不器用である。持って出た雨傘を持って帰ったことはなく、この年齢になって、じぶんで鶏卵を割ることができない。それに、物臭で、不精で、愚図で、内気で、どういう方面から考えても、泥棒のお先棒などには、まずもっとも不適当な人格である。
「でも、あなたをお先棒に使ってみたってたいして役に立ちそうもないと思われますがねえ」
先生は、ムッとしたようすで、
「いや、そう馬鹿にしたもんではない。やらしたら、これで、案外、相当なところまでやってのけられると思うんだが、そういうことは、わたしの道徳的理想と少しばかり喰いちがうので、それで、やらないだけのことなんです。勘違いしないようにしてください」
「いったい、どんなことから、そんなに見込まれるようになったんです」
「わたしのような倫理学者を介添に連れて行くと、少しでも良心の負担が軽くなりますからねえ。むこうの目的はそこなんだと思うんです」
「はっきりお断りになれなかったんですか」
先生は、悩ましそうな溜息をついて、
「それが、そう簡単にゆかぬわけがあるのです。……どうも、すこしばかりいい加減な相槌を打ちすぎたようです。