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ぎせいしゃ
犠牲者
平林 初之輔
「新青年」博文館、1926(大正15)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,364 字 · 37 页
彼は死刑台へでもよいから、はやくこの部屋を出してつれていってほしいと思った。
六、板倉刑事課長の審問
約二十分経った。彼にはそれが数時間のように思われた。
家畜小屋の閂のような、非美術的極まる留置室の扉が、此の上なく野蛮な音をたてて、ごりごりときしみながら開いた。生れおちるとから、罪人以外の人間には接触したことのないような、型にはまった三人の警官が物々しい様子をして外に立っている。
「此処へ来い」
そのうちの一人が錻力を叩くような声で命令した。彼は奴隷のように柔順にだまって出て行った。
三人の頑固な警官が、彼を、まるで危険な猛獣か何かのように、物々しく三方から護衛しながら、燦然と電灯の光のてらしている大きな西洋室へつれて行った。
今村は、日光をおそれる土龍のように、明るい部屋へ出るのが気まりがわるかった。彼は、数時間前から、彼の身にふりかかって来たあまりに急激な変化のために、以前の自分と現在の自分との連絡をはっきり自覚することができなかった。不面目きわまる現在の自分の姿が、見知らぬ悪漢か何ぞのように客観視された。彼は自分で自分を笑ってやりたいような気持になった。