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いぬとひととはな
犬と人と花
小川 未明
「黒煙」1919(大正8)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,015 字 · 5 页
ある町はずれのさびしい寺に、和尚さまと一ぴきの大きな赤犬とが住んでいました。そのほかには、だれもいなかったのであります。
和尚さまは、毎日御堂にいってお経を上げられていました。昼も、夜も、あたりは火の消えたように寂然として静かでありました。犬もだいぶ年をとっていました。おとなしい、聞き分けのある犬で、和尚さまのいうことはなんでもわかりました。ただ、ものがいえないばかりでありました。
赤犬は、毎日、御堂の上がり口におとなしく腹ばいになって、和尚さまのあげるお経を熱心に聞いていたのであります。和尚さまは、どんな日でもお勤めを怠られたことはありません。赤犬も、お経のあげられる時分には、ちゃんときて、いつものごとく瞼を細くして、お経の声を聞いていました。
お寺の境内には、幾たびか春がきたり、また去りました。けれど、和尚さまと犬の生活には変わりがなかったのであります。
和尚さまは、ある日赤犬に向かって、
「おまえも年をとった。やがて極楽へゆくであろうが、私はいつも仏さまに向かって、今度の世には、おまえが徳のある人間に生ま変わってくるようにとお願い申している。