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いぬさんたい
犬三態
宮本 百合子
「都新聞」1939(昭和14)年10月30、31日、11月1日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,236 字 · 9 页
日中は樹の間の奥にいつまでも寝そべっていた。そこからは廊下や座敷で動いている人間のいろんな姿を見ることが出来た。余り人の行かない庭石のところに鉢を出して、飯をおいてある。
そのうち防空演習がはじまった。サイレンが何度も気味わるく太く長く空をふるわして鳴りわたる。
すると、一秒ほどおくれて、その犬がきっと遠吠えをはじめた。サイレンの音よりちょっと高いだけで、終るのも、終りに近づいて音程の下ってゆく調子も、そっくりそのままに連れて、朝でも、夜でもサイレンの鳴る毎に吠え、人間はサイレンばかりをきくのとは又ちがった感情でその遠吠えを聴いているのであった。
いくらか犬の相貌がやわらいで秋が近づいた。今度は蚤を掻く音が高くきこえるようになった。見ているとそれほどでないのに、姿の見えない離れたところできくと、それは大きい凄じい掻き音である。それでもまだ人は近づけず、景清らしく秋の日に照されている。
黒子だらけの顔
いま住んでいる家で二階の南縁に立つと、幾重か屋根瓦の波の彼方に八年ばかり前にいた家の屋根が見える。その家も南向きで、こちらも南があいているから、ひょっとした折、元の家の二階の裏側の一部を眺める工合になっている。