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いぬさんたい

犬三態

宮本 百合子

「都新聞」1939(昭和14)年10月30、31日、11月1日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,236 字 · 9 页

青空文庫

に臥て往来を見ている。

黒子の多い女の顔でもみるような、人間ぽい生活の気分がその犬の表情にあるのであった。

秋雨の降っている或る日、足駄をはいてその時分はまだアスファルトになっていなかったその坂を下りて来た。悲しそうな犬の長吠えが聞えた。傘をあげて見たら、そこは、例のぶちまだらな犬のいる家の前で、啼いているのはほかならぬその犬なのだったが、何となし人の足を止まらせる姿でないている。坂の方から門内へ流れる秋のつめたい雨水は、傾斜にしたがって犬小舎の底をも洗い、敷き藁をじっとりぬらしている。

ぶちまだらの犬は首から鎖をたらしたまま、自分の小舎の屋根の上へ四つ足で不安な恰好に登って立っていて、その不安さがやりきれぬという啼きかたをしている。

往来の方へ、黒子の多い女の顔のようなその顔を向けて、啼いている。今のさっき啼きはじめたのではない啼きようだのに、家のなかはコトリとも物音をさせず、屋根の瓦も羽目の色も雨に濡れそぼったまま二階の高窓はかたく閉っている。ぶちまだらの犬は雨で難渋しているというばかりではなく、その難渋のありようのうちに耐えがたい何かがあって、それが啼かせるという風に、なきながら小舎の屋根の上で絶えず蹠をふみかえているのであった。