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はんにん

犯人

坂口 安吾

「群像 第八巻第一号」1953(昭和28)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,695 字 · 26 页

青空文庫

そのうちに、ふと意外な会話が耳について、彼は思わず首をのばした。乗客の一人が隣席の連れに話しかけているのだ。

「花井という小学校の先生はサヨの情夫の一人さ」

隣席の男が何と答えたかは聞えなかったし、それからの男の言葉も聞きとれなかった。やっぱりそうかと人見は思った。これで殺人の動機も解けた。

新聞社を訪れ、毛里記者に会って、投書を見せてくれと頼むと、毛里は拒絶した。

「もっとも、あなたが手記を書いてくれれば、お見せしますがね」

「なんの手記です」

「つまり、それ、アンタのアレをやったときの手記さね」

毛里はのけぞるようにしてカラカラと笑った。人見はとびかかって首をしめてやりたい衝動にかられたが、握り拳をふるわせてジッとこらえた。そして、冷静に云った。

「よろしい。投書を見せて下されば、私はその場に犯人の名を教えてあげる」

毛里の目の色が一変した。彼はジッと人見を見つめていたが、黙って立って部屋をでると、一通の封書を持って戻ってきた。

投書の文字はわざと小学生のように稚拙であった。そして、目撃者としてあげられているのは、当日の夕刻部落の路上で彼を見たという者も、現場に於て彼の怪しい行動を見たという者も、みんな少年であった。