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きょうかしあかちょこべえ
狂歌師赤猪口兵衛
夢野 久作
博多名物非人探偵
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,418 字 · 79 页
今に俺の処へ頭を下げて来にゃなるまいて……アッハッハッハッハッハッ……」
と来かかった三番町の四辻の中央に立佇まって高笑いした。
通りがかりの者がビックリして避けて通った。
博多の町の南の出外れ、万延寺の本堂と背中合わせの竹瓦に板庇、板敷土間に破れ畳二枚、ガタガタ雨戸の嵌め外しがやはり二枚という、乞食小舎の豪華版から、墓原越しに見晴らす筑紫野は、これも晩春の豪華版であろう。菜種と蓮華草のモザイクに数限りない雲雀の声と蝶の羽根が浮き上っている。鼻の先の境内の青葉嫩葉は、ツイ二、三日前の恐ろしい殺人事件を夢にしたかのように、花よりも美しい若緑を盛り上げて、冷やかな朝東風を薫らせて来る。名物男の狂歌師、赤猪口兵衛の独住居はすべて二、三日前の通りに閑寂である。
但、軒先の底抜燗瓶と古釘の風鈴にブラ下った蒲鉾板が、新しいのと取換えられて違った狂歌が墨黒々と書いて在る。
わが酒の相手は軒の梅桜
風に浮かれてチリテツトシャン
世の中は三分五厘風鈴の
ふところ合ひがチリンカラカラ
その風鈴に近い破れ畳の上に、調子悪そうにキチンと坐っているのは相当の商家の若旦那様と見える、二十歳前後のオットリした優男。