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きょうば

狂馬

佐左木 俊郎

「新青年」博文館、1931(昭和6)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,577 字 · 6 页

青空文庫

若い坑夫は半纒を脱いで青の頭から引っ被せた。

*

地上には初夏の陽光がぎらぎらと降り注いでいた。眼を射るような光線だった。

炭坑事務所から二十間ばかり離れて、三四本の大きな榎が立っていた。その下に、三匹の馬が繋がれていた。その三匹の馬は、坑夫達に引かれて坑内から出て来た青の姿を見ると、首をあげて(ほほほ!)と嘶いた。

青はすると、坑夫の手に引かれていたにもかかわらず、立ち停まった。

「青! なんだって停まるんだい? 青! 青!」

併し青は歩かなかった。最早、青は今までの青では無くなっていた。首を上げ、耳を欹てて、その耳に全身の感覚を集めようとしていた。

そのとき、榎の下から、また、馬が嘶いた。その次の瞬間、青は、坑夫の手から手綱を奪って駈け出した。頭から掩いをされたまま一散に駈け出した。

「馬鹿野郎! 誰だあ? 青を引っ張り出して来たのあ? 気違いになるのきまっているじゃないか?」

誰かが事務所の方から怒鳴った。青はその辺を滅茶苦茶に駈け廻って、榎の下に嘶いている馬達を、探そうとしているのだった。

(附記)長い間を坑内に封じていた馬を、地上の明るい世界に引き出せば、すぐ死んでしまうか、気違いになってしまうそうである。