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たぬきいし

狸石

豊島 与志雄

「中央公論 文芸特集」1952(昭和27)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,468 字 · 7 页

青空文庫

女――三回でうち切ってもよかった筈です。

男――お前が早すぎたし、僕が遅すぎたんだ。然し、この石はいつまでも待っていてくれた。まだこれから後も待っていてくれることだろう。ねえ狸公、お前は待っていてくれるね。千回でも万回でも十を数えていてくれるね。

女――それとも、ねえ狸さん、三回でうち切りますか。

狸石――十を数えるなんて、そんなばかなこと、わしはしないね。

驚くべきことには、狸石が呟くように口を利いて、頭を振った。男も黙り、女も黙り、そして淡い月も雲がかけて、ひっそりと暗くなった。とたんに、青白い鬼火がどろどろと燃えた。その明るみで見ると、男女二人の姿はいつしか消え失せ、狸石だけがとぼけた顔で空を仰いでいた。

それから数日後、いつ誰がしたのか分らないが、大きな狸石をはじめ、その辺に転っていた石塊は、すっかり何処へか持ち運ばれてしまい、雑草は抜かれ、きれいに地均しされた。やがては人家が建てられることだろう。狸石ももう人目にふれず、忘れられてしまうことだろう。