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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

だからリリーが晩飯の後でぶらつきに出かける習慣を、今も改めないでいるものとすれば、ひょっとしたら彼処で会えるかも知れない。そう云えばリリーは、食後に草の生えている所へ行って、青い葉を食べる癖があるので、尚更あの空地は有望な訳だ。―――そんなことを考えながら、甲南学校前あたり迄やって来ると、国粋堂と云うラジオ屋の前で自転車を停めて、外から店を覗いてみて、主人がいるのを確かめてから、

「今日は」

と、表のガラス戸を半分ばかり開けた。

「えらい済んまへんけど、二十銭貸しとくなはれしまへんか。」

「二十銭でよろしおまんのか。」

知らない顔ではないけれども、いきなり飛び込んで来て心やすそうに云われる程の仲やあれへん、と、そう云いたげに見えた主人は、二十銭では断りもならないので、手提金庫から十銭玉を二つ取り出して、黙って掌へ載せてやると、直ぐ向う側の甲南市場へ駈け込んで、アンパンの袋と筍の皮包を懐ろに入れて戻って来て、

「ちょっと台所使わしとくなはれ。」

人が好いようでへんにずうずうしいところのある彼は、そう云うことには馴れたものなので、「何しなはんね」と云われても「訳がありまんねん」