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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页
「………何? 行ったとは限らん?………阿呆らしい! 人の家の台所借って、鶏の肉煮いたりして、リリーの所やなかったら、何所へ持って行きまんね。………それにしたかて、あの提灯持って帰って、あんな所に直してあったこと、お母さん知ったはりましたんやろ?………」
彼女が母親を掴まえて、あんなキンキンした声を張り上げることはめったにないのだが、しかしたった今、彼が床屋へ行っていた僅かな間に、どうやら先日の国粋堂が、あの時の立て換えと古提灯とを取り返しに来たのだと見える。ありていに云うと、あの晩庄造はあの提灯を自転車の先にぶら下げて帰って、福子に見咎められないように、物置小屋の棚の上に押し上げて置いたのであるが、お袋には見当がついていた筈だから、出して渡してやったのかも知れない。だが国粋堂は、いつでもいいようにと云っていながら、何で取り返しに来たのだろう。まさかあんな古提灯が惜しいこともあるまいに、この辺についででもあったのだろうか、それとも二十銭を借りっ放しにされたのが、腹が立ったのだろうか。それに又、親父が来たのか、小僧が来たのか知らないが、鶏の話までして行かないでもいいではないか。