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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

と、皮肉交りに云われそうなのが業腹で、つい延び延びにしていたのである。しかし戻っているとしたら、此方の通知を待つ迄もなく、向うからも挨拶がありそうなものだのに、何とも云って来ないのをみると、何処かにまごついているのであろうか。尼ヶ崎の時は、姿が見えなくなってから一週間目に戻ったと云うのだが、今度はそんなに遠い所ではないのだし、つい三日前に通って来たばかりの路なのだから、よもや迷うことはないであろう。ただ近頃は耄碌していて、あの時分よりはカンも悪く、動作も鈍くなっているから、三日かかるところが四日かかるようなことはあるかも知れない。そうだとしても、おそくも明日か明後日のうちには無事に戻って行くであろう。するとあの二人がどんな喜びようをするか。そしてどんなに溜飲を下げるか。きっと塚本さんまでが一緒になって、「それ見ろ、あれは亭主に捨てられるばかりか、猫にまで捨てられるような女だ」と云うであろう。いやいや、階下の妹夫婦もお腹の中ではそう思うであろうし、世間の人がみんな笑い物にするであろう。

その時、しぐれがまた屋根の上をパラパラと通って行った後から、窓のガラス障子に、何かがばたんと打つかるような音がした。