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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页
」
「阿呆らしいもない。」
そう云ったきり取り合わないで、又水の音を盛んにジャブジャブと立て始めた。
「いったいお母さん僕のお母さんか、福子のお母さんか、孰方だす? なあ、孰方だすいな。」
「もう止めんかいな、そんな大きな声出して、近所へ聞えたら見っともないがな。」
「そしたら、洗濯後にして、一寸ここへ来とくなはれ。」
「もう分ってる、もう何も云わへんさかいに、何処なと好きなとこへ行きなはれ。」
「ま、そない云わんと、一寸来なはれ。」
何と思ったか庄造は、いきなり勝手口へ行って、流し元にしゃがんでいる母親の、シャボンの泡だらけな手頸を掴むと、無理に奥の間へ引き立てて来た。
「なあ、お母さん、ええ折やよってに、一寸これ見て貰いまっさ。」
「何や、急からしゅう、………」
「これ、見て御覧、―――」
夫婦の居間になっている奥の六畳の押入を開けると、下の段の隅ッこの、柳行李と用箪笥の隙間の暗い穴ぼこになった所に、紅くもくもくかたまっているものが見える。
「あすこにあるのん、何や思いなはる。」
「あれかいな。………」
「あれみんな福子の汚れ物だっせ。あんな工合に後から後から突っ込んどいて、ちょっとも洗濯せエへんので、穢いもんが彼処に一杯溜ってて、箪笥の抽出かて開けられへんねんが。