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ねことしゃくしについて
猫と杓子について
織田 作之助
「NHKラジオ放送」1946(昭和21)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,269 字 · 7 页
すくなくとも文学者というものは猫でも杓子でもないのですから、世間の常識とか定説、オイソドックス、最大公約数的な意見、公式、規格品、標準、権威――そういったものを、よしんばそれが世の風潮に乗っている思想であっても、自分の頭で自分が納得できるまで疑うべきであります。そういうものじゃないでしょうか。
例えば、今日、古い日本は亡びて、天皇をはじめあらゆる過去の権威に対する挑戦――といいますか、つまり疑問の提出が活発に行われましたが、しかし、文学の上では権威への挑戦が殆んど忘れられています。明治以後いまだ百年もたっていないのに、多くの大家が文豪と称せられ、古典の仲間入りをして、文学の祭壇にまつりあげられ、この人たちの片言隻句はまるで文学の神様のような権威を与えられて、大正昭和の文学を指導して来ました。が、果してこれらの大家たちの作品が最高のものでしょうか。例えば藤村先生の文学、徳田秋声先生の文学、志賀直哉さんの文学などは、日本的な小説伝統の限りでは、立派なものであり、最高のものでありましょうが、しかし、われわれ近代小説への道に苦労している若い作家にとって、これらの文学伝統は、いったいいかなるプラス的影響を与えてくれるでしょうか。