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ねこのあなほり
猫の穴掘り
寺田 寅彦
「大阪朝日新聞」「東京朝日新聞」1934(昭和9)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,896 字 · 8 页
猫が庭へ出て用を便じようとしてまず前脚で土を引っかき小さな穴を掘起こして、そこへしゃがんで体の後端部をあてがう。しかしうまく用を便ぜられないと、また少し進んで別のところへ第二の穴を掘って更に第二の試みをする。それでもいけないと更に第三、第四と、結局目的を達するまでこの試みをつづけるのである。工合の悪いのが自分の体のせいでなくて地面の不適当なせいだと思うらしい。
どこへ住居を定めあるいは就職しても何となく面白く行かないで、次から次へと転宅あるいは転職する人のうちにはこの猫のようなのもあるいはあるかもしれない。
永らく坐りつづけていたあとで足がしびれて歩けなくなる。その時、しびれた足の爪先をいくら揉んでもたたいてもなかなか直らない。また、夜中に眼が覚めてみると、片腕から手さきがしびれて泣きたいような歯がゆいような心持がすることがある。これもその、しびれた手さきや手首を揉んでも掻いてもなかなか直らない。これらの場合にはそのしびれた脚や腕の根元に近いところに着物のひだで圧迫された痕跡が赤く印銘されているのでそこを引っかき摩擦すればしびれはすぐに消散するのである。