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ねこのあなほり
猫の穴掘り
寺田 寅彦
「大阪朝日新聞」「東京朝日新聞」1934(昭和9)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,896 字 · 8 页
汽車や飛行機や電話や無線電信はいわば氷の中へ熱鉄を飛び込ませ、水の中へ濃硫酸を酌み込むような役目をつとめるものである。
交通機関の拡がるのは、風の弱い日の火事の拡がるように全面的ではなくて、不規則な線に沿うて章魚の足のごとく菌糸のごとく播がり、又てづるもづるの触手のごとく延びるのである。それがために暗黒アフリカの真只中にロンドン製品の包紙がちらばるようなことになる。提燈とネオン燈とが衝突することになる。それが騒動のもとになるのである。
こういう騒動をなくするにはあらゆる交通機関をなくしてしまうか、ただしはこれらの機関を万遍なく発達させるか、どちらかによる外はない。
精神的交通機関についてもやはり同様で、皆無か具足か、どちらかを選ぶことにしなければ面倒は絶えない。
教育にしても子供から青年までの教育機関はあっても中年、老年の教育機関が一向にととのっていない。しかし、人間二十五、六歳まで教育を受ければそれで十分だという理窟はどこにもない。死ぬまで受けられる限りの教育を受けてこそ、この世に生れて来た甲斐があるのではないかと思われる。現在ある限りの学校を卒業したところで、それで一人前になれるはずがない。