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ねこのあなほり
猫の穴掘り
寺田 寅彦
「大阪朝日新聞」「東京朝日新聞」1934(昭和9)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,896 字 · 8 页
に出る。幻滅を感じて狐につままれた顔をして引返してくる場合もあるであろう。しかしアインシュタインは古い昔のガリレーをほじくって相対性原理を掘りだし、ブローイーは塵に埋もれたハミルトンにはたきと磨きをかけて波動力学を作りあげた。
時々西洋へ出かけて目新しい機械や材料を仕入れて来ては田舎学者の前でしたり顔にひけらかすようなえらい学者でノーベル賞をもらった人はまだ聞かないようである。
そうはいうものの新しいものにはやはり誘惑がある。ある暖かい日曜に自分もとうとう京成電車上野駅地下道の入口を潜った。おなじみの西郷銅像と彰義隊の碑も現に自分の頭の上何十尺の土層の頂上にあると思うと妙な気がする。
市中の地下鉄と違って線路が無暗に彎曲しているようである。この「上野の山の腹わた」を通り抜けると、ぱっと世界が明るくなる。山のどん底から山の下の平野の空へ向って鉄路が上向きに登っているから、恰度大砲の中から打出されたような心持がして面白い。打出されたところは昔呉竹の根岸の里今は煤だらけの東北本線の中空である。
高架線路から見おろした三河島は不思議な世界である。東京にこんなところがあったかと思うような別天地である。