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さるがしま

猿ヶ島

太宰 治

「文學界」1935(昭和10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,768 字 · 12 页

青空文庫

私は彼のからだを両手でゆすぶって叫んだ。

「何を言っているのだ。教えて呉れ。あの子供たちは何を言っているのだ。」

彼はぎょっとしたらしく、ふっとおしゃべりを止し、私の顔と向うの子供たちとを見較べた。そうして、口をもぐもぐ動かしつつ暫く思いに沈んだのだ。私は彼のそういう困却にただならぬ気配を見てとったのである。子供たちが訳のわからぬ言葉をするどく島へ吐きつけて、そろって石塀の上から影を消してしまってからも、彼は額に片手をあてたり尻を掻きむしったりしながら、ひどく躊躇をしていたが、やがて、口角に意地わるげな笑いをさえ含めてのろのろと言いだした。

「いつ来て見ても変らない、とほざいたのだよ。」

変らない。私には一切がわかった。私の疑惑が、まんまと的中していたのだ。変らない。これは批評の言葉である。見せ物は私たちなのだ。

「そうか。すると、君は嘘をついていたのだね。」ぶち殺そうと思った。

彼は私のからだに巻きつけていた片手へぎゅっと力こめて答えた。

「ふびんだったから。」

私は彼の幅のひろい胸にむしゃぶりついたのである。彼のいやらしい親切に対する憤怒よりも、おのれの無智に対する羞恥の念がたまらなかった。