轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
しみる紙に紫インクしかなかったところを思い出したりいたします。
五月七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
五月六日
今、夜の八時すこし過ぎたところです。いい月の夜となりました。いかにも新緑の季節の満月らしい軽やかさと清澄さで、東の風がふいているのが、それは月の光のうごきのようです。こんな時間とこんな眺めの時刻に、二人暮しがはじまったのよ、この土曜日は。例のとおり食堂の大机です。白と碧色の格子のテーブルかけや、からりと開け放された南側の石甃やそこに出してあるシャボテンの鉢のふちをきらめかして月の明るさを告げている小さい光りや。柔かく新しい葉をふく風の音は、こころもちようございます。赤いものといえば、つつじの花ばかりですが、緑、白、碧と月光との調和は絵画的です。
甃のところに下駄が一揃出て居ります。その下駄に月の光があります。私は落付いて、のんびり、一人の夕飯をたべながら、その下駄の方をちょくちょく見ました。それは男下駄です。自分の待っている人の下駄に、こうして月がさすのであったらば、どんなでしょう。それは跫音や声や視線や、一寸したしかも特徴的な身ぶりまでをいとしく思い浮ばせる不思議な力をもっています。