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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
大正の終りに枯川が訳したものです。金持の大学生が見学のため炭坑に入り、そこのひどい生活におどろいて良心を目ざまされ、不幸な人々のために一骨折るところですが、最後は妙なハッピエンドです。丁度水戸黄門道中記みたいに、どたん場で、大金持の息子という身分を明らかにして、暴力団のピストルを下げさせてしまいます。そして、働く人たちには、君たちの友達だよ、いざというときはきっと味方する、と金持世界に帰ってしまうのよ。
この小説を読んで感じること、学ぶことは、ああいう国の個人が自分の生活を自分で持ち運んで動きまわれる範囲の縦横のひろさ、ということです。何でもない人が、何でもなく、何でもある経験をなし得るのだし、その何でもある経験から、自然に何でもない生活人にすらりと入れるという、そのひろさ、深さです。わたしたちの周囲では、何か一つの際立った経験があると、周囲はすぐその人を何でもない人にはしておかないし、御当人も何でもない者になり切れず小さくかたまってしまう傾向です。一粒一粒の個人の内容の大小がこうして異って来るのね。風に散りぬの作者だって、あの小説かいたきりもう書きませんと何でもない人になるのですものね。