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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

日本の女で、あの位の小説かいて、何でもなくているでしょうか。

きょうは、もう手紙かきをこれでやめて働き出します。寿の引越しにもたせてやるもの、たのむもの、まとめなくてはならないから。咲、国、まだ帰らないのよ。明日どうするのでしょう、いずれにせよ私は行けません。

夕方ごろ帰って来て、じゃあ行く、と云ったってお伴に立てるわけはないのですものね。桃太郎のお伴の猿や雉ではあるまいし。

一昨日の雹でうちの南瓜の葉っぱ穴だらけよ。胡瓜が小さく実をつけました。トマトも夏の終りになるかもしれません。

きょうも涼しいこと。おなかを大切にね、冷えないようにね。東北は水害相当の由、麦も雹で大分やられました。

七月二十五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

さて、やっと一騒動終りました。くたびれて、眠たあいけれども眠る気もせず。これをかきはじめました。このインクは、風変り、当節のものです。何と云う名かしりませんが、アテナなんかないらしいのよ。小ビンをもって行くとそこにあけてくれます。普通では学生でないとインク売らぬ由、そこのおばさんは――動坂の家へ曲る角の交番(大観音の)あの角の店――わたしが小学生、女学生となってゆく姿をよく覚えているそうで、マアお珍しいと売ってくれました。