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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

健坊も歩いてついて来るのよ、きっと。健坊は、ワンワ、ニヤニヤ、山羊はミューと分ります。牛は何てなくの? モー。健ちゃんは何てなくの? モーオ。だって。大笑いね。

夕立がそれて大分むします。むす、といっても比較にならない程度ですが。

十八、九年ぶりで歩く草道は、どんなになっていることでしょうね。ここいらの樹間の草道には、特殊な趣があります。桔梗が野生に鮮やかに咲いて居ります。では明後日には。

八月十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(封書)〕

八月十四日

いま午後五時です。少くとももう東京に向ってかなり走っている筈のところ、わたしはこうやって机に向っている始末です。この頃の旅行はまるでどこかの探険旅行のようね、思いがけない支障で中途で腰ぬけになったりして。今日のさしつかえは、切符が買えないということです。けさ咲が行って買えず、午後一時の列に女中さんが行って買えず。この女中さんは目がまわるようなグリーンのブラウズを着て、おまけに桃色のハンカチーフを黒のモンペのところにひらひらさせて行ったのですが、何のききめもなく、五枚の制限切符は、とうに列の先でなくなってしまったのだそうです。