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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
きのうは朝早く九段へ行きました。用談すまして十時すこし前からてっちゃんのところへまわりました。大人のジフテリーをやったのよ、入院しました。栄さんから電話のついでに其をきいて、早く見舞いたかったのに、丁度こちらの用が重っていて、そのすきに、というまでは体が動かせなかったの。もう退院しました。自分が病気の間、あれほど心にかけて貰って、こんどあちらがという時放っておくのは何とも心苦しいので、エイと気合かけてきのうまわってしまいました。
大人のジフテリーは予後が心臓衰弱してこわいのです。あぶないと心配していたら、てっちゃんもやったのですって。歩いて帰った翌日、葡萄糖を注射して直った由、すこしやせていました、が、勤めがひどく疲労させるらしいので、却って神経は休まっているようでした。カンシャクもちになったのよ、可哀想に。あの人が、勤め先では決しておこらない人、面白い人になっているって、そうなるための疲れはどれほどでしょう。うちへ帰って敷居を跨いで子供がギャーギャーやっていると、四隣に鳴りひびく声でコラッとやるって、澄子さんが苦笑していました。てっちゃんはいい奥さんをもちましたね、澄子さんはそういうかんしゃくでもちゃんとおとなしくうけてあげる気質ですから。