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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
荷づくりしている手や膝は、おきまりどおりによごれて珍しい何一つもありませんが、このお古のテニスシャツの下にうっているのは、余り丈夫とも云えない女の心臓一つではないわ。
あなたには、これらの感動が文学的すぎて聴えるでしょうか、もしかしたらそうね、少くとも「いく分そういうところもなくはないね」? そういうものよ。自然なものはいつも自分でそれを知っては居りません。チェホフが、若いゴーリキイに云ったようにね、君は風が囁く、とかくが、風は軽く吹いているだけですよ、と。そうよ、でもその風があんまり爽やかで活々としていれば、土方だって御覧下さい、ああやって胸をあけ、皮膚にじかにそれをふれさせようといたします。
九月十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
九月十一日
雨が降り足りないせいか、むしむしして来ました。きょうは、隣組の当番です。八百や魚やなどが、当番の一括購入となり、うちの組は十軒三十二人。十ヶの八百やザル、十ヶの魚入れなどを、もう一人の当番と各戸から集めました、朝九時頃。モンペはいて仔熊よろしくの姿で。
それからフーと水のんでいたら、国男さんがお手紙もって来てくれました、自分のが待たれるから、いつも自分でとりにゆきます、出すのも自分よ。